見失った自分を取り戻し公務員として地域に貢献/親身にかかわる教職員・知人の叱咤が変身を促す
卒業まで6年間かかった上田吉恭さんはいったん中退も考えました。しかし、母の知人の叱咤と教職員の親身のサポートを受け、「この人たちを裏切れない」と心のスイッチが切り替わったそうです。故郷に貢献したいという強い思いから、卒業後も公務員試験勉強を続け、町役場職員の難関を突破しました。住民の要望に対し「できる理由を考える」姿勢を貫く公務員として、日々奮闘しています。
◇「住民のため」を第一に
和歌山県日高川町に昨年(2022年)採用され、総務課で働いています。人口約9000人の小さな町で役場も規模が小さく、幅広い仕事を兼務しています。防災、交通安全、防犯カメラ、消費者行政や空き家の解体、家屋の耐震診断など本当に多岐にわたりますし、役場職員の健康診断も私の担当です。役場がこんなに忙しいとは思いませんでしたが、やりがいを感じています。
住民の皆さんとの距離感が近い職員でありたいと考えています。「カーブミラーを修理してほしい」などの相談が寄せられることがありますが、予算不足などを理由に「できません」と言うのは簡単です。何とかしてできる方法はないか、と考え、住民のために働くことを大事にしたいと思っています。
将来は企画政策課の仕事もしてみたいです。観光など、地域活性化を考える仕事に挑戦するのが目標です。役場から派遣の形で、青年会議所(JC)で民間の方とボランティア活動などに取り組んだり、地域の祭りで獅子舞に挑戦したり、祖父の代で耕作を止めていた水田でコメ作りを再開したりと、地域とのかかわりは公私ともに深まっています。
◇ 3年間授業に出席せず
出身高校の和歌山県立日高高校は進学校で、過去に甲子園出場の実績もある野球部の投手として、本気で甲子園を目指していました。野球部の先輩や親戚も進学した桃山学院大学に親近感があり、一般入試で入学しました。1年次の時は授業に出ていたのですが、2年次から4年次までほとんど大学に行かなくなりました。大学近くに下宿していたのにアルバイトに明け暮れ、バイト先や飲み屋で知り合った学外の友人ばかりと付き合っていました。将来については、漠然と地元に帰って就職したいとは思っていましたが、「今が良ければそれでいい」というモラトリアム状態でした。
◇ 「投げ出したくない」と大学に戻る
そんな状況を知った母からは、「大学を辞めたら」と言われました。卒業するつもりがあるなら、「続けたい」と言ってくるだろうと思っていたそうです。母の職場の上司の方にも呼び出され、「お母さんが一人で育て、学費を出してくれているのに、このざまは人として失格や。大学を辞めるなら明日からここで働け」と言われました。
私も大学を中退しようかと考えていましたが、急に「学業を投げ出すのは嫌だ」という気持ちが込み上げてきて、「大学を続けさせてほしい」と頼み込みました。日高川町の自宅から片道2時間半かけて通学することにしました。余計な遊びをせずに学業に集中するにはその方が良いと思ったのです。
5年次、6年次のときの学友は年下ばかりでした。本気で怒ってもらったことで(心の)スイッチが切り替わり、年下の子といっしょに学ぶことは苦にならず、むしろ楽しめました。卒業に必要な単位を取得するため、ひたすら講義を受けた2年間はしんどかったけど楽しかったです。
◇ 地元に貢献する公務員を目指す
大学での学業に戻り、例えば藤井寺市のPR戦略を半年かけて考える授業などを通じて、自分の町に帰ってそういう仕事ができたら、やりがいがあるだろうなと思うようになりました。桃大の学びを通じて、自治体の仕事のイメージをつかむことが出来ました。また、私の地元の日高川町と連携したプログラムにも参加し、農業や林業などを体験する機会もありました。桃大には良い授業が多いですよ。
故郷の日高川町の職員を目指すことにし、民間企業の就活はしませんでした。しかし、大学6年目に受けた役場の採用試験は、筆記試験で落ちてしまいました。このままでは合格できないと思い半年間、公務員試験の勉強に注力しました。周りからは「いつまで学生をしているのか」と言われましたが、人生で一番勉強した半年間でした。結果、合格することができ、母はもちろんですが祖父と祖母がすごく喜んでくれました。
◇ 支えてくれる人が多い桃大
ほとんど大学に通っていなかったから、単位の取り方もよくわからなかった私を、学習支援センターなどの職員の方が親身にサポートしてくれました。母以外に「裏切るわけにはいかない」と思う人が増えたからこそ、頑張って卒業できたと思います。大学に行かない土曜、日曜は母の職場(日高川町の学校給食の配送や宿泊施設の運営などを行う指定管理者)で死ぬほど働きました。
今、何らかの理由で大学に来られなくなっている人に言いたいのは、(自ら)踏ん張ったら支えてくれる人が桃大にはいっぱいいる、ということです。「僕ができたんだから、皆できるよ」と、卒業をあきらめかけている子に伝えたいです。