司法の場に福祉の視点を――保護観察官に内定した久松紀代夏さん
9月5日、九州地方更生保護委員会の採用面接を受け、採用内定の連絡をいただきました。長く苦しかった公務員試験対策の勉強が実り、卒業後は保護観察官として働きます。保護観察官は国家公務員で、ボランティアの保護司と協力して、仮釈放が認められた受刑者等のサポートに当たります。高齢や障がいなどの困難を抱えていながら、福祉のサポートにつながることが出来ずに、犯罪を繰り返してしまう受刑者が少なくありません。仮釈放等が認められた対象者が、保護観察期間終了後も自立して生活できるように支援していきたいと思っています。
◇ 福祉のサポートで再犯を防ぎたい
高校時代から困っている人を助けたいと思っていました。桃大入学後、家庭裁判所調査官や少年院の法務教官など司法の場のソーシャルワーカーに関心を持っていたので、栄セツコ教授から、山本譲司『累犯障がい者』という本を勧められました。その本で、刑務所を出ても高齢や障がいのために生活が厳しく、再び刑務所に入りたいと再犯する人が少なくないことを知りました。家裁調査官や法務教官は主に少年が対象ですが、保護観察官は少年から高齢者まで幅広くかかわれるので志望しました。
犯罪の実態に触れるため、裁判所に傍聴にも行きました。高齢の男性が妻の介護疲れから放火未遂をした事件の公判では司法の視点だけで審理が進み、福祉の視点は感じられませんでした。早くに福祉のサポートにつながっていたら、事件は起こらなかったかもしれないと感じました。
また、本の著者の山本さんが大学近くの和泉市に講演に来られた時は、「これは行くしかない!」と会場に駆けつけ、聴衆は中高年の保護司の方が中心でしたが、控室にあいさつに行きました。そこで保護観察官の方を紹介され、非行少年をお姉さんお兄さんの立場で支援するBBS会というボランティア活動にも参加させてもらいました。
◇ 公務員試験に向けた勉強の日々
試験に向けた対策として、福祉系公務員の試験に必要な社会学、心理学などの専門科目に関する勉強を3年次の初めから始めました。朝は英語、数学などの一般教養、昼は福祉系の科目、そして夜は心理学、教育学などの専門科目と、勉強漬けの毎日。「遊んだら落ちる」と趣味のクラリネット演奏も封印しました。
6月の一次試験(筆記試験)、7月の二次試験(人事院の面接)を突破し、近畿か九州での採用を希望しました。今年は全国で約40人の採用に対し、受験者は200人ほどと聞いています。狭き門なので精神的にも追い込まれましたが、苦労していたことを間近でみていた友人たちは「よく頑張ったね」と褒めてくれましたし、家族も喜んでいます。今では「我慢強くなれた」と振り返る余裕が出てきました。まだ、卒論の準備や、国家資格の「社会福祉士」、「精神保健福祉士」の試験も受けるつもりですが、これから学生らしい時間も取り戻そうと思っています。
◇ 沖永良部島から桃大へ
鹿児島県沖永良部島の出身で、大学進学するには島を出るしかありません。母方の祖母が大阪にいるので、大阪に出ることにしました。進学先は、公立大学など迷いましたが、キャンパスがきれいで自由な学風の桃大を選びました。桃大の魅力は福祉の勉強ができることと海外留学のチャンスがあることでした。インドでのボランティア活動に参加したかったのですが、コロナ禍で果たせませんでした。それでも新入生などのサポートをする学習支援センターのスタッフやオープンキャンパスのスタッフなど、チャンスをつかみ、いい人に巡り会え、充実した学生生活でした。
来年4月からは九州地方の保護観察所か更生保護委員会で働くことになります。信頼される保護観察官になれるよう努力しなければなりませんが、特に「万引きした高齢者」のサポートに力を入れたいと考えています。スーパーのおにぎりなど少額のものを繰り返し盗むのは、認知症の問題があるのかもしれませんし、クレプトマニアという依存症の場合もあります。万引きする原因を調べ、福祉の視点でサポートしていきたいと思います。
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