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長野県立科町の「タテシナソン」ーーBD学部生2人が大賞などに輝く

 全国的に猛暑が続いていた9月初め。涼しさを求めて観光に訪れる家族連れや若者グループとは少し雰囲気の違う、内に秘めた情熱を感じさせる学生たちが、信州・長野県の高原リゾート、立科町に集まっていました。彼らは地域の産業活性化やブランディングのプランを競う学生アイデアソン「タテシナソン2023」の参加者たち。その中に桃山学院大学ビジネスデザイン(BD)学部の学生2人の姿がありました。他大学の学生とチームを組んで、1泊2日・28時間の現地調査とディスカッションで練り上げたプランが、優先的に事業化を進める「タテシナソン大賞」と、特に斬新なアイデアに贈られる「商工会長賞」に輝きました。
首都圏、関西圏、中京圏、そして地元・長野など全国から集まってきた学生たちが和気あいあいと、時には火花を散らすような議論を繰り広げる中、課題解決型(PBL)授業などでビジネスプラン作りに取り組んできたBD学部の学びの力を発揮しました。タテシナソンとはどんな取り組みで、BD学部の学生2人はどのような挑戦をしたのでしょうか。

◇ 今年で5回目

 立科町は長野県中部にある人口6,768人(2023年9月1日現在)の町です。南北に長い町域を持ち、北部の里山エリアは稲作やリンゴ、高原野菜の栽培、畜産が盛ん。一方、南部の白樺高原エリアは蓼科山や白樺湖、女神湖などがある、有名な高原リゾートです。関東を中心に夏の避暑や冬のスキーなどのレジャーで訪れる観光客が多い一方で、住民一人当たり付加価値額が全国1,741自治体中1,100位から1,600位に止まっており、産業競争力の底上げが課題となっています。

自然豊かな場所が魅力の、長野県の立科町(写真提供:立科町)

 タテシナソンはバックグラウンドの異なる若者に、立科町内の事業者が抱える経営課題を解決するアイデアを提案してもらい、実際に事業化まで進める地方創生・地域づくり系イベントとして2017年に始まりました。コロナ禍による中断はありましたが、今年5回目を迎えました。
 学生のアイデアを実際に事業化する決意で臨んでいる「課題提供事業者」をはじめ、学生の求めに応じて町内の〝現場〟やキーパーソンを案内・紹介する「ガイド」ら地元スタッフの熱意と、交通費と食費を負担してでも〝武者修行〟に挑戦しようと今回も全国から約20人の学生が駆け付け、桃山学院大学からはBD学部3年の高取誠也さん、2年の能登悠加さんが参加しました。学生たちは4つの班に分かれて、課題の解決策や消費者にアピールするブランド戦略を、議論していきます。

◇ リンゴ農家の課題とは

 今回の課題提供者は信州関農園株式会社の関陽一社長。地元出身で、埼玉県で結婚して保育士として働いていましたが、祖父母が営んでいた農園をたたむことになり、Uターンしてリンゴ栽培と稲作に取り組んでいます。高齢化によって耕作が難しくなった周辺の農地も引き受けるようになり、株式会社化して経営規模を拡大しています。しかし、減農薬で手間と人手をかけて生産する年間2トンのリンゴのうち、出荷できるのは半分の1トンだけです。残りの、色づきが悪かったりキズが付いたりしたリンゴ1トンは廃棄せざるを得ないのが悩みといいます。また、全国一の青森県と比較して長野のリンゴは生産量が少なく、ブランド力でも苦戦しています。コメも東北や北陸の産地に比べて生産量が少なく、リンゴ同様にブランド力の弱さが課題だということです。そこで、学生に「ブランディングを成功させる為の日本一の称号が欲しい!」を課題として提示しました。

リンゴ農家さんの抱える社会課題解決に、28時間で取り組む(写真右が能登さん)

◇ 日本一じゃ物足りない・世界一銀河一を!

 学生たちは「ガイド」スタッフの車で、信州関農園の農場や過去に課題提供した事業所、地元の常連客だけの居酒屋、道の駅、別荘地など町内の様々なスポットを巡って、立科町の特色と課題を体感し、プラン作りに取り掛かりました。各班は4~5人で初対面。翌日午後には発表(プレゼンテーション)しなければなりません。
 能登さんは男性参加者が体調不良で辞退してしまったため、女性4人の「たぬきチーム」でプラン作りに取り組みました。▽味に問題がないのに廃棄されているリンゴを活用できないか、▽収穫期以外の収入源にできないか、▽就農前は乳児院で保育士をしていた関社長の思いを込めるには――などから、乳幼児向けの保存食に加工する案をまとめていきました。
 メンバーには大学で医療関係の勉強をしている人、絵が上手な人(パッケージデザインを担当)、インタビューが得意な人がいて、能登さんは他メンバーのアイデア、発言を磨き上げるサポート役を務めました。保存性を高めるために「真空パックはどう?」と提案し、リンゴとコメ(おかゆ)をパウチに入れて真空パックするプランにつながりました。また、「睡眠は2時間だけ」でプラン作りに取り組んでいた宿のオーナーが、「日本一では物足りない」とつぶやいたのに触発され、「銀河一リンゴに想いを乗せた農家さんになってもらいたい!」というタイトルを提案しました。
アドバイザー役の「メンター」から、「あなたは言語化が上手だ」と評価されました。能登さんは、自分の思いが間違って伝わってはいけないと、「この状態、今の気持ちを表すのに一番良い言葉は何かをいつも考えている」そうで、メンターに評価され自信になったということです。

BD学部の学びの特徴である「立場によらないリーダーシップ」の力強さを、
タテシナソンでも実感(右から2人目が能登さん)

◇ 地域のあたたかさをアピール

 高取さんは男性3人女性2人の「うしチーム」に所属しました。立科町に着いたときの第一印象は「田舎やなー」でしたが、関社長やタテシナソンのスタッフ、町の人々と触れ合う中で、「地域のあたたかさ」を感じました。課題が「日本一の称号を」というものだったので、「日本一あったかい農園」というプランをまとめました。具体的にはSNSを活用し、第一段階で関農園の家族経営の雰囲気、地域の人たちとの交流ぶりを発信し、第二段階ではホームページ「関さんあったかMAP」に関社長とかかわりのある人たちを紹介し、地域の温かさを感じてもらう、というものです。HP作成が得意なメンバーが、1時間でHPを試作するなど、スピーディーな作業がスタッフに驚かれたそうです。
 5人のメンバーは全員社交的で互いに活発に話し合い、グループを引っ張るタイプの参加者もいました。そこで、高取さん自身は「客観的にみて足りないと思われる部分を指摘したり、場を盛り上げる発言をしたりして、グループワークが円滑に進むように取り組んだ」そうで、「BD学部の課題解決型(PBL)授業の経験が役立っているかな」と振り返りました。

5人が協力し合い、僅か28時間でプランを提案する(写真手前が高取さん)

◇ BD学部の学びが結実

 高取さんも能登さんも、農ビジネス関連企業等の課題の解決策を考える科目「農ビジネス」などで学んだ知識が、他大学生より詳しく、議論に貢献できたそうです。能登さんは「リンゴ農家が困っていること、中小企業の販売戦略など「農ビジネス」で学んだことが、タテシナソンで実際に役立ち、『腑に落ちた』と感じました」と振り返りました。また、プレゼン資料の作り方、プレゼンソフト・パワーポイントの機能の活用方法、パソコンのタイピング速度なども他大学生を上回っていて、プレゼン資料を見やすいデザインにするなどの貢献ができたそうです。
 また、「大阪に来たことがない」という長野の学生に「案内するよ」(能登さん)、「神戸大の学生と仲良くなり、関西でも遊ぼう」(高取さん)など、他大学の学生と親しくなったのも大きな成果でした。能登さんは「関西圏以外の人と初めて知り合って、視野が広がった。他の人にもタテシナソン参加を勧めたい」と振り返っていました。

BD学部での学びの成果を、これからも様々な場面で発揮していきたいと思います!
(高取さん:写真左、能登さん:写真右)

▼タテシナソン

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