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人の心に、安らぎと癒やしを。芸術とは、理屈ぬきで、人の心を動かすことができるもの。【安本佛像彫刻工房】

学生時代の、仏教への関心。

ノミで形どり、彫刻刀で描く。奈良県東吉野村で、黙々と一心不乱に仏像と向き合う仏師・安本篤人。その心中とは、美術・芸術への思いとは、どのようなものなのだろうか——。
彼は桃山学院大学 文学部(現:国際教養学部)に入学した当初、特に仏像への興味はなかった。きっかけは1年次を終えた春休み、インドネシア・バリ島への短期留学。現地の人々の生活や文化の基盤であるヒンドゥー教への信仰心の厚さが、強く印象に残ったという。「自分も日本人として、もっと仏教に関心を持つべきではないだろうか…」。帰国後、安本は地元奈良県の東大寺へと足を運んだ。それこそが、彼にとって「すべてのはじまり」となるのだった。

東大寺での衝撃的な出会いと、仏師への道。

東大寺・戒壇堂(かいだんどう)。壇上に安置されている四天王立像・持国天の姿に、安本は言葉にできないほどの衝撃を受けた。「造形の美しさだけではありません。理屈ぬきで心に響きました。当時は自分がどう生きていくべきか悩んでいたのですが、持国天に『大丈夫やで』と言ってもらった気がしました」。さらに安本は、進むべき道を見つけた。「強くて優しい仏像をつくりたい。そして自分が持国天から感じたように、人の心に安らぎをもたらす仕事がしたい」。
思いは安本を激しく突き動かした。大学を休学し、仏像彫刻の教室に通いつつ多くの書物から知識を蓄え、基礎を学んだ。さらに富山県、京都府でそれぞれ仏師に弟子入り。その間に大学へも復学し、卒業。自身の技術に満足できず悩むこともあったが、仏師への道をあきらめることはなかった。そして2014年、31歳の時に、仏師としての独立を果たした。

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個性は出すものではなく、自然と出るもの。

独立当初は知り合いから依頼される看板や表札の彫刻をつくる仕事が多かったが、やがて仏像彫刻教室を開くなど活動を広げるうちに、仏像彫刻の仕事も増えていった。現在は個人からの依頼だけではなく、お寺の四天王像をつくるという大きな仕事も行っている。安本はその仕事において、意図的に個性を出そうとはしない。「個性とは、意識して出すものではなく、自然と出るものだと考えています。心をこめる、それ以外に何も考えずに打ちこむことで、自分らしさが表れてきます」。
また、仏像が完成に近づくにつれ、「そこに息吹が入る瞬間」を感じるという。しかしそれはあくまで、ひとつの器ができたに過ぎないと安本は言う。「器とは、心を入れる器。自分はまだ人生経験も少なく、魂を入れるとまでは言えません。まずは自分が心をこめてつくった仏像という器をたくさんの人が拝んで、たくさんの心を入れてもらって、それが何百年、何千年経って仏になれればいいと考えています」。

心を動かす仏像を通じて、多くの人々との交流を。

「理屈ぬきで、人の心を動かすことができるもの」それが安本の芸術観だ。自分のつくった仏像を見た人の心に、少しでも安らぎや癒やし、救いをもたらすことを彼は願っている。さらに仏像彫刻教室やインターネットを通じて、工房のある奈良県東吉野村でのワーク&ステイなど、海外も含む観光客との交流、村の活性化にも貢献していきたいという。「桃大には、『世界の市民の養成』という建学の精神があります。在学中は深く理解していませんでしたが、今になってその大切さを感じています」。仏像と、自分自身と深く向き合う一方で、その視野は大きく広がっている。

(※この内容は2018年9月取材時のものです)