大阪なす、大阪きゅうり、トマトなどを生産。生産者として食を支える。経営者として農業の明日を拓く。
家業を継ぐことに疑問を感じ、桃大へ
「家が農園を経営しているから、自分が跡継ぎになるのは当然。そんな固定観念がとても嫌でした」。そう語る古川だが、決して農業そのものが嫌いだったわけではない。子どもの頃から農作業を手伝い、土と野菜とふれあいながら育ってきた彼は、むしろ農業への愛情さえ抱いていた。しかし高校卒業後に家業を継ぐことをよしとせず、桃大へと進学した。「経営学部を選んだのは、心のどこかで農園経営を意識していたのかもしれません。いずれにしても、すぐには農業を継がずに桃大へ進んだのはよかったと思っています。人との出会いや学びを通じて、視野が広がりました」。
自分が好きだから、自分で農業を選んだ
大学生活を経て心にゆとりができたのか、卒業する頃には家業を継ぐことへの疑問も無くなっていた。「やらされるのが嫌だっただけで、自分が好きだから、自分で選んで農業をやるというモチベーションが芽生えました」。
農園でつくるのは、大阪なすや大阪きゅうり、トマトなど。日々、農作業に取り組みながら、古川は外の世界へ目を向けることも忘れなかった。家と畑を往復するだけの生活にならないよう、講座に通って野菜ソムリエの資格を取得。さらに地産地消ブームの中、市場だけではなく地元量販店へも販売するようになり、営業的な立場で会議や商談にのぞむ機会も増えた。しだいに農園の顔としての役割が大きくなり、古川は父に代わって経営者の座を受け継いだ。
いつもの野菜を、絶やさずいつもの食卓へ
古川の野菜づくりへの思いは、シンプルかつ力強い。「野菜は毎日のように食べるもの、普通にあるもので、特別なものではないと思っています。しかし、だからこそ、いつもの食卓に必ずあって、人々を元気にする存在であってほしい。つねに安定した品質の野菜を、安定してつくることを意識しています。実はそれが最も難しいのですが、天候や病害のせいにはしたくありません。何が起きても対応して野菜をつくるのが私の仕事です」。
野菜は生き物であり、時間のかかる土づくりから、苗木栽培、接ぎ木、水やり、ハウスの温度や二酸化炭素濃度の管理など、すべての生産工程に注意が必要で、苦労も多い。それだけに、古川の野菜への愛情はとても深く、大きい。「自分にとって、野菜は子どもと同じ。それぞれに個体差があり、見た目がきれいで喜ばれるもの、そうじゃなくてもおいしさで喜ばれるもの、それぞれが行くべき食卓へ届いて、おいしく食べてもらえたら、私もうれしいです」。
経営者も従業員も皆が幸せになれる農業をめざして
農業という仕事の魅力を高め、その未来をもっと輝かしいものにするべく、古川は経営者として、従業員の待遇ややりがいをさらに向上させることを大きな目標としている。「そもそも従業員を雇うのは、農園の生産量を拡大・安定させ、自分や家族が幸せになるため。例えば子どもを大学へ行かせるためでもあります。それを、自分のためだけではなく、従業員のためにもやっていきたい。従業員の子どもも大学へ行かせられるよう、十分な給料が払えるようにもっと努力していきたいと思います。それが古川農園だけではなく、世の中全体がそうなれば、農業の未来も明るいと思います」。
かつて家業の跡継ぎに反発していたことについて、現在の心境を改めて聞くと、古川は力強く、笑顔でこういった。「今は本当に、家が農園でよかったと思います。そうじゃないと農業はできなかったし、していなかった。野菜という食が人の命をも支えているという誇りと責任感を持って、今は農業に取り組んでいます」。
(※この内容は2018年12月取材時のものです)