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大阪府・市のプロジェクトで、大阪IR(統合型リゾート)計画の地域への影響を研究【経済学部の学生チーム】

 大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)に建設予定のカジノを含む統合型リゾート計画(大阪IR)が今年4月、政府の認定を受けました。IRには地域経済活性化への期待とギャンブル依存症や治安悪化の懸念など賛否両方の考え方があります。経済学部の地域政策ゼミ(吉弘憲介教授)の学生2チームが、地元経済への波及効果や治安悪化対策について、計量経済学の手法を使ってデータに基づく研究に取り組み、大阪府・市の「副首都・大阪」連携プロジェクトのリサーチ・プレゼンテーションで、大阪府・市の幹部などを前に発表しました。

 IRはホテルや劇場、国際会議場、見本市会場などを複合させた施設で、観光客やビジネス客を呼び込み、関連産業の雇用を増やすなど、地域経済を活性化することを狙っています。一方で,収益の多くの部分をカジノで稼ぐ事業構造であることから、ギャンブル依存症に苦しむ人が増え、治安が悪化する懸念があると指摘する意見もあります。国は全国で最大3か所のIRを開設する計画でしたが、依存症増加の懸念から横浜市などが撤退し、現在は大阪と計画を審査中の長崎県が残っています。

◇雇用効果が期待される米国モデルも検討を

地域経済への波及効果を検討したチームは、夢洲がある此花区が大阪市内24区の中でも経済が低迷気味(人口密度24位、世帯数23位、世帯ごとの平均収入12位)であることから、「居住区としては発展していない此花区が、IR施設の立地により豊かになるのか」という問題意識で研究に取り組みました。米国の統計を利用して、カジノのある23州について、カジノの雇用数と全体の雇用数を比較し、雇用効果を検証しました。その結果、カジノ雇用の全雇用への寄与率は州全体では低いが、ラスベガスが所在するネバダ州など一部の州では一定の貢献がみられました。ネバダ州は大阪IRの中核企業の親会社であるMGMリゾーツインターナショナルの本拠地であり、その手法を参考にしてみることを提案しました。
 また、MGMの年次報告書のデータから、同社が運営する米国とマカオ(中国)のIR施設の利益構造を分析しました。米国では純利益の割合がカジノ約49%、ホテル約21%、食品・飲料約18%、エンターテイメント・小売り・その他約12%だったのに対し、マカオはカジノ約88%、ホテル約5%、食品・飲料約5%、エンターテイメント・小売り・その他約2%で、「カジノが主力部門であることは共通しているが、各部門の比率の違いから運営方針の違いが見える」と分析し、「大阪IRはマカオにスポットライトが当てられているが、アメリカのモデルについても焦点を当ててはどうか」と提言しました。

大阪府・市の幹部などを前に発表する、吉弘ゼミの学生たち

◇カジノと治安悪化に統計上有意な関係はない(米国)

 治安悪化対策を検討したチームは、横浜IR計画が中止になった理由に「治安悪化、依存症の懸念」があげられていたことから、データが入手可能な治安について検討しました。米国の全州の1999年から2011年までのデータを基に、カジノの有無と強盗数、平均所得、貧困率の関係を算出しました。その結果、「カジノの有無と強盗発生率に統計上有意な関係は見られない」、「カジノの規模と強盗数の増加は明確に関係しているとはいえない」ことから、米国ではカジノ施設の有無が治安悪化と関係しているとは言い切れない、としました。一方、日本ではパチンコ店数と都道府県別の窃盗認知件数を調べ、「パチンコ店舗数が1増えると、窃盗認知件数は162件増える」ことがわかり、治安を悪化させる可能性は否定できない、と結論しました。
 以上の分析結果から、「カジノばかり治安の面から否定してよいのか」、「カジノという施設の特殊性から治安を悪化させているとは言い切れない」とし、米国のカジノ施設と日本のパチンコ店では利用者層が異なる可能性があり、利用者層把握のためのデータ収集が今後の研究課題としています。

◇海外の文献データを活用し、達成感を得る

 学生は研究テーマを選んだ理由について「国内で初めてのIR事業による影響を知りたいと考え、研究題材を選択しました。経済効果や展開する事業が住民にどのように作用するのかについて、日本に住む人間として気になりました」とし、「国内に先行事例が無いため海外文献のデータを引用する必要があり、国内事例がないものを研究する難しさを感じました。当初はどのIR事業も似通ったものではないかと想像していましたが、1つの事業分野に特化して運営している事例、多元的な事業分野を展開している事例など、各国のIR施設によって事業展開が大きく異なっていた点に驚きました」と振り返っていました。また、行政の幹部への発表について「研究途中の部分を質問されることもあり、回答に窮する場面では緊張しました。その反面、発表内容に対する評価もいただいたことで、やりがいや達成感を感じることができました」と手ごたえを感じていました。

発表を終えて、ホッとした表情のみなさん

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